翻訳者アフタートーク(1) ―「1920年代の作品」編―
■今回は「虫の息日記」ではありません。今回、ゾーシチェンコを訳したロシア文学翻訳グループ「クーチカ」のメンバーによるイキイキとした会話をお楽しみください! つづきも近日公開予定!
――どう? まわりで少しは反応あった?
――「ロシアにも落語があったんだぁ」って言われた。
――最初からロシア版の落語を期待して読まれると、ちょっと違うかもね。
――たしかに「長屋のクマ公ハチ公」的な人間が出てくるから、そこが「落語」を感じさせるのかな。
――作品としては『ふろ屋』に行く男がそうかな。ロシアの公衆浴場のイメージはあまりなじみがないけど、日本の銭湯でも昔は混雑してたから場所の取りあいとか、服の間違いとか、似たようなトラブルがあったみたい。すっきり気持ちよくなりたくて行った銭湯で、自分はなんにも悪くないのに、いいことがひとつもない、いやんなっちゃって帰る弱気なオジサン。弱り目にたたり目の典型?
――読んだ人の反応を聞いてると、笑いの感覚は個人差が大きいっていうのがよく分かるよね。ゾーシチェンコを読んだロシア人がみんな吹き出すからって紹介しても、日本の「お笑い」系とかギャグ的なものを期待されると「笑えない」って言われる。
――たしかに状況が違うからね。当時のソ連社会の内実が分からないとって言われると…
――それでもわたしはやっぱり『アジ演説』が面白いと思う。「アジ」とか「同志」って言葉に違和感がある人もいるかもしれない。やっぱりその頃の世の中の雰囲気が分からないと、「どこが?」って言われるのかな?
――地方からちょっと都会に出て行った人間がしばらくして帰ってきて、自分でもよく知りもしないことを急にエラそうに話しはじめると「なんだこいつ」って感じで逆にばかにされて嘲笑の対象になるっていうことは日本でもあるよね。
――かっこつけても、ズレてるやつ、よくいる。
――「無理してる」感が強いのは『貴婦人』の男も同じかも。
――女もね。男は貴婦人だと思い込んでいるけど、住んでるのは男と同じ団地だし。劇場に行けばケーキをパクパクよく食べるし。本人は精一杯気取ってるつもりでも、要するに下品。
――『コップ』だともう親戚一同そろってケチのかたまり。コップ1個で裁判沙汰。これは大げさに書いているわけじゃなくて、本当にそういうことが普通にあったんでしょ?
―― 普通にかどうかは分からないけど、きっとあったんだろうね。なんてったって、ロシア人だから。(笑)
――『懺悔』の教会の話も実際にこんな感じだったんだろうね。
――「反宗教的」作品っていわれたけど、そう単純なわけじゃないと思う。最初は作品のタイトルをロシア正教会の用語で「痛悔」にしてたけど、群像社の人に意味が分からないから普通の言葉にしてくれって言われた。『痛悔』だと目次を見ただけでたぶん読み飛ばしますよって。ちょっと残念。
――懺悔に行ったおばあさんも、司祭も、新しい時代についていけてない。
――『レモネード』なんかは、時代背景なしでも充分ついていけるけど。禁酒宣言して半日ももたない。それも自分から飲むんじゃなくて、お店が勝手に出してくるから飲まされる。
――お酒だと分かっても、じゃあ、おかわり。饅頭こわい、みたいに飲んじゃう。
――じゃあ、やっぱり落語?(笑)
一冊の本ができるまで
めったに聞けない話と
めったに見られない本に
出会えるチャンス!
日時:2011年1月23日(日) 13時〜
場所:大阪大学豊中キャンパス言語文化研究科2階大会議室同小会議室(群像社書籍全点展示即売)
参加費:無料 予約:不要
最寄駅:大阪モノレール柴原駅、阪急宝塚線石橋駅より、いずれも徒歩約12分
タクシー(阪急宝塚線蛍池駅より)約10分
<プログラム>
1.本づくりを語る。(群像社代表:島田進矢氏)
古典から現代ものまで、ロシア文学を専門に出版する群像社の島田氏による、作品の選択から、翻訳者との打ち合わせ、販売に至るまでの本づくりのプロセスについて。
2.新訳『桜の園』(A・チェーホフ)を語る。
(大阪大学教授: 堀江新二氏)
近く出版予定の『桜の園』の翻訳にまつわる工夫、新たな発見についての話。
3.ロシアSFを語る。(宮風耕治氏)
『ロシア・ファンタスチカ(SF)の旅』の著者で、大阪大学
文学部出身のSF青年が語る、現代ロシア文学&ロシアSFの魅力について。
(水声社からはジョルジュ・ペレック『人生使用法』、未知谷からはフランチスカ・ツー・レーヴェントロー『金銭コンプレックス』)。
それとは別に出版社からの「おすすめ本20冊」のリストを事前に出すように言われて、以下の本を挙げました。正直、自社本からさらに「オススメ」を選ぶのはかなり困難なのですが、今回は時間が限られていたこともあり、めったに表明しない個人的偏愛度+コメントの思いついた順であげていきました。
(書名、著者、コメントの順です。)
私人|ブロツキイ|群像社ももう限界かと思って薄さの限界に挑戦
眠れ|ペレーヴィン|無名の著者発見に興奮さめやらぬ1冊
虫の生活|ペレーヴィン|小さい会社は小さいものに共感する
宇宙飛行士 オモン・ラー|ペレーヴィン|ソ連ものは売れないというジンクスを打ち破る
チャパーエフと空虚|ペレーヴィン|意味不明のタイトルは低価格で訴える
寝台特急 黄色い矢|ペレーヴィン|前編から14年もかかった難産の後編
巨匠とマルガリータ(上・下)|ブルガーコフ|傑作品切れの隙間を狙ったスキマ出版
現代ウクライナ短編集|ガイブンの伝統芸、地名本はまだ有効だった
それぞれの少女時代|ウリツカヤ|ガーリッシュ文学というジャンルを教えられた1冊
魔女物語|テッフィ|ロシア文学は哲学ばかりではありません
プロコフィエフ短編集|プロコフィエフ|作曲家の小説、意表をつけばやはり注目度はあがる
猫の町|ナリ・ポドリスキイ|「猫」本なら群像社でも売れると思って
青銅の騎士|プーシキン|全集でしか読めなかったのが不思議で
かもめ|チェーホフ|舞台とのコラボレーションシリーズの代表として
ペテルブルグ物語|ゴーゴリ|個人的な好みで「ネフスキイ大通り」を出すために
落日礼讃|カザケーヴィチ|問い合わせに原書は未刊ですと答える初のロシア語書き下ろし
コーカサスの金色の雲|プリスターフキン|生前の米原万里さんに絶賛された本は群像社でたぶんこれ1冊
マンデリシュターム読本|中平耀|投稿原稿を編み直して著者に逆提案して生れた本
チェーホフの庭|小林清美|ヘルマン・ヘッセの庭仕事も売れたのならこれもいけるはず、と
ロシアを友に|宮澤俊一|創業者の心を理解していただくために

